溝口梓里の日々精進

他者のプライバシー保護を重視する予定なので、激動の日記にはなりません。個人的信念の吐露と、公開型の書籍・講演・試験への感想とが、主な内容になる予定。

松尾剛行著『ChatGPTと法律実務』を再読。購入時よりも深く味わえたことへの喜び等。

第1 購入から再読までの経緯

1 就活のため購入

 法律事務所への就活のため、説明会に出席したり募集ページを読んだりしているうちに、AIの活用や独自研究をしていることを強調する事務所と、それらを控えめに語る事務所と、AIについては一切語らない事務所とがあることに気づいた。

 そこで自分の志望度を決めるにあたり、「近未来の法律実務へのAIの影響力」を大まかでよいから調べる必要が出てきた。

 そのために大急ぎで購入したのが松尾剛行著『ChatGPTと法律実務』(2023 弘文堂)(以下、「本書」と表記)であった。

2 初読時の浅い理解

 読み始めてみると、理解が困難な概念が次々と登場し、ページをめくる速度は非常に遅かった。

 もしも知らない概念を一つ一つ調べていけば、当時の実力でもやがては本書を味わい尽くせたかもしれない。

 しかし8月4日の記事*1にも書いたように私は就活を始めるのが遅かったため、そのような悠長な読書をしている時間が無かった。

 そこで西暦2040年ごろの状態を予測した第9・10章だけを大急ぎで読み、「多分AIは法律実務で相当使われるようになっていくのだろう」程度の浅い理解度のまま、本棚に放り込んだ。

 そうして見切り発車で、AIを重視して志望先を決めた。

3 再読したら深く味わえた。

 後述する諸般の事情により、今月当たりから私は「今なら本書をより深く理解できるかもしれない」という淡い期待を持てる状態になった。

 そういうわけで再挑戦をしてみたところ、著者が要求する前提知識は慣れ親しんだ概念ばかりであったので、数ヶ月前とは段違いの速度で読めた。

 初読時が「飛ばし読み」だったとすれば、今回は「飛ぶように読めた」といったところである。

 結論についても、「良質の出版社から出た本で、偉い専門家がそう言っているからそうなんだろう」という追随にはとどまらず、何故その結論に達したかの判断過程を理解した上での賛同へと至れた。

第2 役立った基礎力たち

1 司法修習で学んだ実務

 「はじめに」等から判断するに、本書は主に現役の弁護士や企業の法務担当者を読者として想定しており、法律実務に関する最低限の知識は自明のものとされている。

 一方で初読時の私といえば、サマークラークにもオータムクラークにも申し込んでいなかったため、ほぼ純粋培養でマンガのネタになりそうなぐらいの「法学だけ知っていて法務はまるで知らない人」というキャラクターであった。

 そこからこの四ヶ月強の修習により、実務の知識が一応は最低限レベルにまでは達することができた。

 これが、本書を速読できるようになった第一の理由である。

2 IT系の勉強

 AIを重視して志望先を決めるという就職活動の結果、第一志望のアディーレ法律事務所から内定をもらえた。

 理の当然として、内定先の懇親会などのイベントでは、先輩諸氏からIT系の資格の話題をしばしば聞くようになった。

 「これは自分の勉強の方針も、内定先に合わせて転換しなければならないな」と考え、長らく「困ったら今川さんに聞けばいい」と放置してきたIT系の知識を増やし始めた。ある時は資格試験を利用し*2、ある時は大学のシンポジウム等を利用した*3

 そしてこの過程で知財法にも興味を持てた。

 これらを経たからこそ、抽象的に「機械が学習する」とか書かれていても、それが具体的にどんな手順でどう学んでいくのかがイメージ出来るようになっていた。

 これが、本書を速読できるようになった第二の理由である。

3 野口竜司著『ChatGPT時代の文系AI人材になる』

 これは広い意味では前節の学習の一部であるが、特に関連性が深かったので別途語る。

 野口竜司著『ChatGPT時代の文系AI人材になる』(2023 東洋経済新報社)は、装丁・題名・文体を一瞥すると「如何にも大衆書」という雰囲気がある。しかしこれは販売促進のための仮面だと思ったほうがいい。

 中身をじっくり読んでみると、GPTに関する質の高い基礎情報が込められており、このお蔭で相当基礎力がついたというのが私の感想である。

 これが、本書を速読できるようになった第三の理由である。

第3 再読後の感想

1 予想外の新事態への対応力の向上

 「2040年には、こうなりそうだ」という結論だけを受け入れていた状態の場合、著者の想定外の新事態がたとえば2030年ごろに発生してもそれを認識できず、最悪の場合には自分の人生の方針転換は2040年からということになりかねない。

 しかし判断過程まで理解した上での未来予想への賛同へと進化したのであるから、何か本書に載っていないような新事態が発生した場合には、即座に対応を開始できるようになったと思う。

2 サマークラークを申し込まなかった後悔の増大

 前掲8月4日記事の時点でもサマークラークを申し込まなかったことを相当後悔していたのだが、もしも申し込んでいれば本稿第2章第1節の「実務の疎さ」問題はかなり緩和されていたはずである。

 結果的に本書の結論への賛同は変わらず、かつ結果的に第一志望の事務所から内定をもらえたとはいえ、それらはすべて結果論である。

 サマークラークに申し込んでいれば、実際に体験したよりも高い確率で同様の結果に至れたのであるから、やはり強く反省すべきだと思った。

3 学習の達成度の新しい計測器を入手

 6月2日の記事*4では、自分のIT系の勉強の達成度の計測器として、「IT系資格の数」と「今川さんへの質問の内容」とを挙げていた。

 しかし今回の事例を元に、「あえて難しい書籍を買い、まず挫折し、やがてそれを読めるようになったなら、それは進歩の証だ」という新しい判断基準を私は手に入れた。